日本の伝統芸能の粋として、世界文化遺産に登録されている能。しかし難解で鑑賞しにくいともいわれています。能を易しく能楽師が解き、身近に親しんでいただくための講座です。解説を聞くだけではなく、能楽堂を見学したり、舞台で使用される面や装束に触れることもできます。
10月〜12月期は能「黒塚」がテーマです。旅人を襲わねば生きてゆけぬ安達ヶ原の鬼女。糸車を廻し、その宿業の哀しみを唄うという、「生」を深く描いた名曲です。
扮装の能面や装束、舞・謡などを通して、能の面白さを覗いていきます。 能公演の鑑賞会にも参加しますので、楽しんでご覧いただける講座です。
能「黒塚」(くろづか)
陸奥・安達原に踏み迷った、熊野の阿闍梨祐慶の山伏一行は、一軒の庵に宿を求める。庵主の女は、旅人へのもてなしに糸繰りの様を見せる。糸車を回しながら、人間の儚さや老いの定めを「糸」に絡めて歌い語り、輪廻と宿業について紡いでゆく。やがて「夜寒をしのぐため、裏山へ薪を採りに外へ出るが、けっして閨(ねや)の中をみないように」と念を押して山中へ行ってしまう。
山伏の能力(のうりき)が誘惑に負けて閨を覗くと、そこには積み上げられた死骸の山が。逃げ出した一行の後を追って、約束を破られた怨んで怒った鬼女が迫ってくる。山伏は五大明王に祈って、法力で対抗し、ついに鬼は夜嵐とともに消え失せる。