一本でも手許にお花があるということは、心を豊かにしてくれます。形、色、手触り、香り、花に秘められた想い、記憶・・・。一気に世界が広がっていき、そこに身を委ねることができるのです。花器がなくとも、瓶やコップで十分ですが、そこに一手間、一工夫を加えるだけで、格段に魅力が増します。いけばなは、そんな魔法を皆様にお伝えいたします。
その昔、神や仏に捧げる供花(くげ)に携わることができたのは、男性でした。室町時代に開花した大作の「たてばな」も男性のものでした。明治になって、婦女子のたしなみとなりました。たおやかに生けられたお花は、心和みますし、その所作も美しいものです。一方、潔く大胆な男性いけばなも、脈々と現代に息づいています。
現在、池坊、小原流と並んで、三大流派に名を連ねる草月流(創流昭和2年)は、初代家元が男性で、その男性的明快さと男性特有の繊細さが、広く世界に受け入れられたのではないでしょうか。その後、偶然にも、草月流は、二代目女性、三代目男性、当代四代目女性と、家元が男女交互に代替わりし、男性の大胆さと女性のやさしさが、うまく溶け合って、魅力的な作品が生み出される源になっております。
いつでも、どこでも、だれにでも、どんな材料でも生けられることを特色としている草月流のその理念は、心や頭の柔軟性を促し、男女を超えた創造を可能にします。数ある流派の中では、自由な作風と云われる草月流ですが、万年青(おもと)や菖蒲、水物(蓮、睡蓮、河骨など)を凛と生けることも学べます。そんないけばなの新旧両面の魅力を皆様に知っていただく、お手伝いをさせていただきたいと思います。
- 講師
- 木戸 久美(草月会本部派遣講師)